東京銀がなぜ全敗?
2024年8月5日
パリ五輪女子バスケットボールのグループフェーズ最終戦が4日、リールのスタッド・ピエール・モーロワで行われ、前回東京五輪銀メダルの日本はベルギーに58-85で敗れ、3戦全敗のグループC最下位で大会を終えた。
ベルギーに大差で勝てば決勝トーナメント進出の可能性を残していた日本は序盤から劣勢を強いられ、
生命線のスリーポイントシュート(3P)も成功率わずか24.3パーセントに封じられた。東京五輪で世界を驚かせた日本は、なぜ得失点差が「マイナス64」に達する惨敗を喫したのか。
時間の経過とともに、希望が絶望に変わっていく。
世界ランキング9位の日本が同6位のベルギーに大差をつけて勝ったうえで、
続けて行われるグループBの結果次第で、日本が決勝トーナメントへ進出する可能性を残していたグループフェーズ最終戦。しかし、大前提となる勝利そのものが、
7-19で落とした第1クオーターを皮切りにどんどん遠ざかっていった。
生命線としてきた3Pが決まらない。第1クオーターでは7本放って成功したのはまさかの0本。
第2クオーターの残り7分58秒に赤穂ひまわり(25、デンソーアイリス)がようやく決めたが、最終的には37本を放って9本と、40パーセントを目標に掲げる成功率はわずか24.3パーセントにとどまった。
両チームは3年前の東京五輪の準々決勝でも激突。
最終クオーターの残り15.2秒で林咲希(29、富士通レッドウェーブ)が3Pを決めて、
86-85と劇的な逆転勝利を手にした日本がそのまま史上最高位の銀メダルへと駆けあがった。
キャプテンとして2度目の五輪に臨んだ林は、最終的には27点もの大差をつけられたベルギー戦を
試合後のフラッシュインタビューでこう振り返っている。
「私たちが走りきれた部分を含めていい場面もありましたけど、ベルギーの圧力もすごくて、
自分たちが止めきれなかった部分がたくさんあった。1勝したかったし、次(決勝トーナメント)に進みたかった、という気持ちが強い」
現在は男子日本代表を率いるトム・ホーバス前ヘッドコーチ(HC、57)から「特別なシューター」と信頼されていた林も、ベルギー戦ではチーム最多の13本を放ちながらも成功は3本、成功率23.1パーセントにとどまった。
もっとも、グループフェーズの3試合で、日本は3Pの成功率だけでなく、
リバウンドの攻防でも大苦戦を強いられ続けた。
リバウンド数を振り返れば、米国との初戦で27-56、ドイツとの第2戦で34-48、
そしてベルギーとの最終戦では32-45と大差をつけられた。
こうしたスタッツに、身長193cmの高さを武器に長く代表をけん引してきた、
渡嘉敷来夢(33、アイシン・ウィングス)のパリ五輪代表落選を敗因にあげる声がSNS上で飛び交った。
しかし、現在は大学でヘッドコーチを務め、米国で学んだ経験のあるバスケットボールの専門家は、
「日本がパリ五輪で結果を出せなかった原因は3つある」と指摘。アメリカ戦でチーム最多5本の3Pを含めて、
17得点をあげた山本麻衣(24、トヨタ自動車アンテロープス)の欠場を真っ先にあげた。
「ひとつは山本がアメリカ戦で脳震盪を起こしてドイツ、ベルギー戦に出られなかったこと。
日本のバスケットはローテーションディフェンスと呼ばれる、
前からどんどんプレッシャーをかけてボールを奪い、
スピードを生かして、かきまわして、スリーポイントシュートで加算していくスタイル。
銀メダルを獲得したホーバスHCのスタイルを恩塚HCが踏襲したものだが、
それにはやはりスリーを決められるスコアラーが不可欠で、
今大会では山本がそのスペシャルな能力を持つ選手だった。
脳震盪を起こした選手の健康を守る規定で、彼女が出られなくなったのが痛かった。
高さのある渡嘉敷をメンバーから外したことが議論になっているそうだが、
高さはあるもののディフェンスや運動量の落ちる彼女を外した理由は理解できる。
むしろ痛かったのは、渡嘉敷の不在ではなく山本の欠場だ」
アシスタントコーチとして銀メダルを獲得したホーバス体制を支え、
東京五輪後にHCへ昇格した恩塚亨氏(45)は、
パリ五輪に臨む女子代表の基本コンセプトとして「走り勝つシューター軍団」を掲げてきた。
右ひざの故障で東京五輪出場を断念した渡嘉敷は、恩塚HC就任後に代表復帰を果たしているものの、
最後にプレーしたのは昨年6月のカナダ遠征までさかのぼる。
パリ五輪出場を決めた今年2月の世界最終予選を含めて、
渡嘉敷を選外とした陣容で戦ってきた恩塚体制での軌跡を踏まえて、前出の専門家はこう語る。
「渡嘉敷を入れるなら彼女用のチームプランが必要で、
それはチームの引き出しを増やす意味で重要なことだった。
しかし、それをブラッシュアップする機会が少ないというチームが置かれた環境もあるだろう」
そのうえで、日本がパリ五輪で結果を出せなかった2つ目の原因を「日本が銀メダルを獲得したことで、
他チームから研究し尽くされたことにある」と指摘する。
「現在はアナリティクスバスケットが主流。日本の激しいディフェンスにつかまらないように、
ドイツやベルギーはパスの球離れを早くして、ボールをポンポンと動かす工夫をして、
日本のディフェンス対策をしていた。こうなると日本はさらに運動力を求められ、
いくらスタミナを強化して、運動力とスピードを武器にしたといっても、
疲労からスリーの成功率は下がる。チームの運動量をキープするため、
恩塚HCはうまくローテーションで選手を交代させていたが、やはり限界はあった」
実際に林はフラッシュインタビューで、世界から追われる立場に変わったパリ五輪で痛感した点として、
対戦各国のレベルアップをあげている。
「自分たちは追われる立場でしたけど、新しいバスケットボールになったなかで、追う立場で戦おう、
という気持ちがありました。
それでも、世界は日本と戦う点でレベルアップしてきた、という感覚を今回の五輪ですごく味わいました」
研究されている、と選手たちが実感している状況を受けて、
前出の専門家は最後の3つ目の原因として「銀メダルを獲得したホーバスHCのチームから、
何がどうブラッシュアップされたのか、という部分への疑問だ」とつけ加えた。
「スタイルを踏襲したことは間違いではないが、スリーを決めることのできる個の能力の育成や、
世界が対策を練ってきたなかでさらに上をいく戦略、
戦術を考えて磨くといった作業がどれだけできたかに疑問は残る。
またテストマッチ、強化試合で強豪と対戦する機会も少なかった。
東京五輪で銀メダルを獲得したが、明らかに世界のなかで実力が突出していたわけではなく、
ひとつ間違えば今回のような裏返しの結果になることはありえた。
ということは、今度はまたその裏返しを狙えるということだ」
ベルギー戦を生中継した日本テレビのスタジオ解説を務めた渡嘉敷は、
髙田真希(34、デンソーアイリス)ら盟友たちの戦いを称えながら、
37歳で迎える4年後のロサンゼルス五輪へ向けて、こんな言葉を残している。
「私は4年後を狙っています。高さの部分でチームの力になれたら」
女子代表が臨んだ6度の五輪で、大会を未勝利で終えたのはパリが初めてだった。
対戦各国の対策の前に「走り勝つシューター軍団」戦略が封じ込まれ、
インサイドでの差も見せつけられた末に喫した惨敗を、
日本バスケットボールとしてどのように総括して再出発を期すのか。
次は頑張ってほしいですね